
阪急
HANKYU Dept. Store
- 企業
- 阪急阪神百貨店(エイチ・ツー・オー リテイリング)
- 本店
- 阪急うめだ本店、大阪市梅田、大阪府
- 店舗数
- 12
- 百貨店の開店
- 1929年
- デザイナー
- 松永真、1984年
自然をモチーフとした展開性あるグラフィック
紙袋
阪急百貨店の紙袋の特徴はその展開性にある。
花、星、月、太陽、鳥、雲などのエレメントが8つのカラーと組み合わせてデザインされた紙袋は無限大ともいえる展開性を持つ紙袋だ。
一般的に百貨店で用いられる紙袋は各用途に対して1デザインであることが多い。これに対して阪急百貨店は店舗ごと、売り場ごと、商材ごとに使えるデザインシステムを構築し、手に取るたびに新鮮で発見のある紙袋デザインを採用した。一般に紙袋は種類と色数を少なく、単一のデザインを大量生産したほうがコストが下がる。そこに逆行するこのデザインを制作できたのには、紙袋というブランドツールに対する百貨店の姿勢が見てとれる。


斬新なデザイン方針と 数多のバリエーション
デザインについて
この斬新かつ型破りな紙袋デザインを手掛けたのが、グラフィックデザイナーの松永真である。1982年のうめだ本店リニューアルで包装紙のデザインを一新した際に制作されたのがこのデザイン。その後、1984年に有楽町店に限ってこのデザインを用いた紙袋が使用され、1989年に創業60周年を記念して全国の店舗で紙袋として使用されるようになった。本稿では紙袋としてデザインが使用され始めた1984年を制作年とした。
「阪急交響曲」とされたコンセプトどおり、生命と自然をモチーフにしたイラストが紙袋の中で多様に組み合わさり、構成されることでひとつの世界を紙袋上に表現している。イラストの調子と色彩から高貴な印象を受けるものではないが、百貨店の親しみやすさと気分の豊かさを感じさせるようなデザインになっている。

前述のとおり、阪急百貨店の紙袋はデザインエレメントを店舗ごとに展開したものが用いられていた。
顧客層が幅広い阪急梅田本店は落ち着いた配色。女性客が多い千里阪急はスイートな色使い、郊外型の川西阪急は自然の植物と空をイメージした配色、ファッション志向の四条河原町阪急はソフィスティケートな雰囲気、港町を意識した三宮阪急はブルーを基調としたさわやかなイメージに、数寄屋橋と有楽町は都会的なイメージと配色に。とコンセプトを設定している。
当初はこのような店舗ごとのアイデンティティを決めて展開されたが、現在はこのような運用は見られず、デザイン展開に法則性を見出すことができない。おそらく展開するデザイン数も当初より少なくなっていると推察する。
その展開性ゆえ紙袋コレクターにとって悩ましい紙袋ではあるが、紙袋デザインの手法として類を見ない秀逸な作例である。




紙袋の種類・つくり
種類 | デザイン | サイズ展開 | つくり | 用途 | 有料/無料 |
|---|---|---|---|---|---|
一般用 | モチーフのデザインエレメント(花、星、月、太陽、鳥、雲など)を展開したもの。配置や色は店舗、売り場ごとに異なる。規則性は不明。 | SMLの3サイズ、デザイン同様でその他サイズ多数 | MF | 幅広く一般用途 | 無料 |
食料品用 | 阪急百貨店が1950年代に用いていた包装紙のデザインを復刻したもの。阪急百貨店と共通で使用。 | 2サイズ、ボトル用 | MF | 食料品売場・酒売場で使用 | 無料 |
弔事用 | エレメントの花をグレースケールにした共通デザイン | 1サイズ | 一般用と同じ | 弔事用 | 無料 |
阪急メンズ用 | デザインは一般用と異なる。 | SMLの各3サイズ | MF | 阪急メンズ東京、阪急メンズ大阪にて使用 | 無料 |
大阪でのブランド力と関西に集中する経営
百貨店のあらまし
食の阪神に対して、服の阪急と呼ばれる阪急百貨店はそのブランド力から、ハレの日の百貨店とみなされることが多い。
大阪でのブランド力は強固で、特に阪急うめだ本店は西日本で最も売上高の高い百貨店である。
展開する店舗は、うめだ本店、千里阪急、神戸阪急、高槻阪急、川西阪急、西宮阪急、博多阪急のフルライン百貨店8店舗と阪急メンズ東京、阪急メンズ大阪、大井食品館、宝塚阪急、都築阪急のカテゴリ百貨店4店舗。
阪急百貨店として直接のSC運営は見られないが、高槻阪急が高槻阪急スクエアとして多くの面積が専門店化されている。
阪急メンズはメンズカテゴリに特化した百貨店であり、伊勢丹メンズ館に並ぶ特徴的な取り組みである。
また東日本にフルライン百貨店はなく、経営資源が西日本に集中していることがわかる。

世界で最初期のターミナルデパート、ハレの日の阪急。
百貨店の成り立ち
阪急百貨店の歴史を見るときに特筆すべきことは、鉄道会社が経営する最初期のターミナルデパートである点だ。
この百貨店が開店したのは1929年4月の大阪梅田。その名の通り、阪急電鉄が経営する駅直結のデパートであった。後にターミナルデパートと呼ばれる百貨店であり現在では広く一般的にみられるものだが、その最初期の存在がこの阪急百貨店である。
阪急創業者の小林一三は百貨店開業前に阪急電鉄の本社1階で百貨店の白木屋に小規模の支店を開設させる。この賃料を売り上げによる歩合制とすることで利益を調べ、ターミナルデパートの実験にした話はよく知られているが、実際は固定賃料という記録が残っており風説の域を抜けない。
これらの動きについて、阪急百貨店を世界初のターミナルデパートとする認識がある。しかし、実際には梅田本店開店の3年前にあたる1926年に大阪上本町で大阪電気軌道の大軌ビルに三笠屋百貨店が開店しており、規模や業態から見ても世界初のターミナルデパートは三笠屋百貨店とするのが自然であろう。諸説あるにせよ、阪急百貨店が鉄道会社直営という点で先駆的な百貨店であることに変わりない。
その後4回にわたる増築を経て、1936年には東洋一の総面積56000平米を誇る百貨店となり、神戸三宮に支店を展開した。

東京進出による拡大と高級路線への転換
百貨店の転機
戦後の1950年に包装紙を一新、阪急沿線の名所や建物、商品をちりばめたパターンで、これは現在食料品用手提げ袋のデザインとして使用されているもの。 1953年に東京大井(大井町)に阪急大井店を開店、東京に進出する。当地に工場を置いていた旧鐘紡からの誘いに乗る形で大井町駅前の鐘紡所有ビルに出店。その後、阪急百貨店は半世紀以上にわたって品川区大井の開発に注力してゆく。小林一三が懇意にしていた東急の五島慶太が渋谷を開発したことも開店の背景にある。 1959年には海外に出店。ロサンゼルスにビバリーヒルズ阪急を開店した。これは高島屋に次ぐ第2号である。同年、スーパーマーケットのセントラルとオアシスを開業し、スーパー市場に進出。オアシスは現在の阪急オアシスである。 1972年、阪急うめだ本店がリニューアル(第8期)。売り場面積は当時日本一で、ショーウィンドウや壁材をブロンズ仕上げの豪勢なつくりにした。このリニューアルを機にファッションや高価格帯品に注力、大衆百貨店から高級百貨店を目指し始める。 1982年にも本店でリニューアルが行われており、包装紙を松永真によるデザインに変更している。これが現在の紙袋デザインの原型。


阪神との統合、関西圏への集中戦略に。
百貨店の現在地
1990年代にはモール型商業施設のモザイクやJR東日本との合弁でグランデュオの開業を行っている。
1996年には数寄屋橋阪急をH2数寄屋橋阪急としてリニューアルしている。通りを挟んで向かい側に有楽町阪急があり、同社同名の百貨店が2つあるという特異な状況でどう差別化するのかについての試行錯誤が見られる。結果的に数寄屋橋阪急は閉店、有楽町阪急はフルラインからメンズカテゴリに特化したが、H2という名が水素からきていること、後に阪神との統合でエイチ・ツー・オー リテイリングと名乗ることからも象徴的な出来事のひとつであろう。
2006年に阪急電鉄と阪神電気鉄道が統合。それにあわせて2007年10月に阪急百貨店と阪神百貨店が統合し、エイチ・ツー・オー リテイリングが発足する。
阪急百貨店と阪神百貨店は有楽町と同じく通りを挟んで向かいに位置する百貨店同士ではあるが、阪神百貨店が阪急百貨店との差別化を図ってきた歴史から、統合後の差別化はスムーズに行われている。
2000年代終わりには高島屋との統合も模索するものの実現には至らなかった。
阪急百貨店は大阪という競合の多い市場環境に晒されてきたが、先進的な取り組みと強力なMDで阪急ブランドを強固にしてきた。
近年のインバウンド消費や高価格品への強い需要から阪急百貨店には追い風が続いており、今後も大阪における地域一番店の状況が続くだろう。

ガイド
● 電鉄系百貨店
鉄道会社をルーツに持つ百貨店。昭和初期、駅の集客力に気づいた鉄道会社は駅前の敷地に百貨店を展開した。世界で初めて鉄道会社が展開した百貨店が阪急百貨店。そのほかに阪神百貨店、近鉄百貨店、東急百貨店、東武百貨店などがあたる。ターミナルデパートとも。
● カテゴリ百貨店
扱う商材を特定のカテゴリを絞った百貨店。従来のフルラインアップの百貨店とは異なり、特定のターゲットやコンセプトをもとに商品が編集される。十貨店という表現も。メンズカテゴリに特化した伊勢丹メンズ館や阪急メンズ、食品カテゴリに特化した東急フードショー、阪神・にしのみやなどがあたる。
● モータリゼーション
1960年代後半から90年代にかけての急速な自家用車の普及。都心部の百貨店は駐車場の拡大が迫られ、郊外型の百貨店も登場。大規模な駐車場を備えたショッピングモールも台頭してゆく。










